― 道東・湧別町、グラスフェッド黒毛和牛の冬景色 ―
秋がゆっくりとフェードアウトする間もなく、道東・湧別町は一気に冬へと移り変わりました。
ただ12月に入っても雪ならぬ雨が降ることもあり、近年の気候の変化を感じています。
年を越すころには道東らしい気候に戻り、放牧地は静まり返り、空気は張り詰め、吐く息が白く残るそんな季節を迎えています。

▲あまりの冷え込みに牛舎に湯たんぽを設置すると野良猫がちゃっかりその上に
そんな厳しい季節の中でも、有機牧草で育つグラスフェッド黒毛和牛「ひとのわ」は、確かに前へと歩みを進めています。
放牧から牛舎へ
これまで放牧を中心に育ってきた「ひとのわ」ですが、12月中旬、牛舎への移動を決断しました。
黒毛和牛は比較的寒さに強いと言われますが、マイナス20℃が続く道東の冬。寒いと身体を温めるためににカロリーを使うためため成長速度が遅くなるというのもあるのですが、そもそも「ひとのわ」はまだ子牛。そのため想像以上に過酷な状況になると判断しました。
専門家や先輩畜産農家の助言を受けながら、「今は守る時期だ」と結論づけました。
また離乳のタイミングとも重なり、母牛や乳母と離れることへの不安もありましたが、牛舎内での飼育へと切り替えています。
牛舎内では個室を用意し、落ち着いて過ごせる環境づくりを最優先にしています。
冬毛に覆われた体は、ひと回りもふた回りも大きく見え、もこもことした姿に思わず頬が緩みます。

ただし、冬はどうしても余計なエネルギーを寒さ対策に使います。
発育を急がせず、無理をさせないことも、グラスフェッドという選択の大切な要素だと考えています。
地産地消
北海道農陽ファームが大切にしているのは、「牛だけを見ない」飼育です。
牛が食べる牧草、その牧草を育てる土、さらに地域資源とのつながりまで含めて考えています。
仲牧場自慢の有機牧草を育てるために堆肥に加え、土壌バランスを意識した施肥を行っています。
ホタテ産業が盛んな地域ならではの取り組みとして、貝殻の活用も行っています。粉にした貝殻は土壌のカルシウムやミネラルを補い、砕いたものは道の水はけ改善にも役立っています。
海で育ったホタテが、陸の牧草地へ還り、やがて牛の命を支える。
この循環こそが、持続可能な畜産の土台になると信じています。

▲ホタテが育成されているサロマ湖へ落ちる夕日
冬の牧場は、理想論だけでは乗り越えられません。
水道管の凍結や破損、重たい雪による牛舎や乾草舎への負荷が日常的に発生します。
電熱線を入れたくても、電気代高騰という現実が立ちはだかります。
それでも梁に突っ張りを入れ、雪を下ろし、毎日牛の様子を確認しています。
効率よりも安全を、スピードよりも確実性を重視しています。
こうした積み重ねが、牛の健康と事業の継続につながると考えています。
人と自然、牛と牧草。
すべてが厳しさの中で試される冬だからこそ、見えてくるものがあります。
「ひとのわ」は今、静かに力を蓄えています。
春の放牧地を再び踏みしめる日を目指しながら、冬を越えようとしています。

北海道農陽ファームのグラスフェッド黒毛和牛事業は、決して派手ではありません。
しかし、土地に合った自然と向き合う姿勢、そして一頭一頭と向き合う覚悟を大切にしています。
そのすべてが、この冬の牧場にあります。
これからも「ひとのわ」の歩みを、ぜひ見守っていただければ幸いです。



